医療従事者に対してワクチン接種が始まっています。
私の勤務先でも先週から1回目のワクチンが始まりました。1000人ほどに接種して、上肢の腫脹と末梢神経症害、高度の倦怠感など、勤務が困難になる有害事象は数例にとどまっています。
有害事象がより多いと言われている2回目は、来月です。
ワクチン接種がまだ始まったばかりにもかかわらず、すでにある変異ウイルスに対して、ある種のワクチンの効果が非常に低下しているという報告が出ています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2102214?query=featured_home)
今日本で打たれているワクチンは、現在の日本での流行株には有効です。「あー、良かった」と感じる方が多いでしょう。
でも、決して良くはないのです。
変異ウイルスはすでにいくつも出てきており、これからも出てくるでしょう。これはRNAウイルスでは当たり前のことです。RNAウイルスは遺伝子変異が起こりやすく、進化の速度が早いのです。ワクチンに耐性を持つ変異がすでに出ているとすれば、これからも出る可能性が高く、しかもワクチン接種者が増えるとワクチン耐性ウイルスが選択されて流行するようになる可能性があります。
今回、変異ウイルスに対する効果が低下しているとされたのは「アデノウイルスベクターワクチン」というワクチンで、現在日本で主に使われている「mRNAワクチン」とは、ヒトの細胞へのmRNAの運び方が異なります。しかし、細胞内に運ばれてタンパク質を合成してヒトに免疫反応を引き起こさせるための主役のRNAはあまり変わりません。今回は、たまたま、あるワクチンの有効性の低下が著しく、他のワクチンの有効性はそう落ちていないだけで、今後、現在有効とされるワクチンに対する耐性ウイルスも出てくる可能性が高いと考えておいた方が良いと思います。
今回の研究結果を踏まえると、ワクチンでは新型コロナウイルスの流行を長期的に制御しきるのは困難なことが予測されます。
ワクチンによって新型コロナウイルスの心配がなくなって普通の暮らしが戻る、というのではなく、程度の大小はあれ新型コロナウイルスの流行は続くという前提のもとで、どのように生きていくか、考える必要があると思います。
今シーズンのインフルエンザは過去最大の流行となっています。一般に、抗ウイルス薬を内服すると、患者さんの体内のウイルス量も早く減ることがわかっています。そうすると流行が抑えられてもよさそうなものですが、実際の流行は抗インフルエンザ薬がなかった時代と比べて減っていません。むしろ、今シーズンは「より早くインフルエンザウイルスを減らす」新薬のゾフルーザが登場したにもかかわらず過去最大の流行が見られているのです。
ゾフルーザを内服すると耐性ウイルスが成人でおよそ5-10%、小児で20%程度出現することが発売前から知られていました1)。ゾフルーザの添付文書には下のようなグラフが載っています1)。ちなみにプラセボというのは薬効成分の入っていない「偽薬」のことです。このグラフから、①ゾフルーザを内服するとウイルスが急速に減少する、②一部の患者さんではウイルスが途中から増える、ことがわかります。
中村啓二ら 好酸球増多と高IgE血症を伴った非HIV患者の播種性クリプトコックス症の1例
(感染症誌 90:819-24 ,2016)
要約:免疫不全の背景がない33歳女性が播種性クリプトコックス症を発症。好酸球増多と高IgE血症を伴っていた。基礎疾患を有しない播種性クリプトコックス症患者の中に、アレルギー素因を有し好酸球増多や高IgE血症を認める患者群が存在する可能性が示唆された。
明らかな免疫不全を認めない患者が、播種性クリプトコックス症患者の約1割存在する可能性がある(PLoS ONE 2013;8:e60431)
雑感:真菌なので、局所ではアレルギー性気管支肺アスペルギルス症のようにアレルギー反応が感染(共存)の成立に寄与しうることが知られている。播種性クリプトコッカス症というsystemicな感染症でも、アレルギー素因(→好酸球増加、IgE増加)と感染の成立に何らかの因果関係(例えば、Th1/Th2バランスの変化を介した)がありうるというのは興味深い仮説である。
細田智弘ら 脾梗塞を合併したサイトメガロウイルスによる伝染性単核症
(感染症誌 90:814-18 ,2016)
入院したCMV感染症に伴う伝染性単核球症では、血栓症合併率は6.4%で、免疫異常のない症例が65.9%。深部静脈血栓症・肺塞栓症、脾静脈血栓症、脾梗塞の順に多い。(Justo D et al. Eur J Intern Med 2011;22:195-9)
工藤貴之ら 膀胱癌再発予防のためのBCG膀胱注入療法後4年を経て診断された医原性膀胱結核の1例
(感染症誌 90:809-13 ,2016)
BCG膀胱注入療法後の局所性BCG感染は、発生頻度が0.1%といわれている。
Brasil P et al.
Zika virus infection in pregnant women in Rio de Janeiro.
N Engl J Med 2016;375:2321-34
方法:2015年9月から2016年5月までに、過去5日以内に皮疹が出現して受診した妊婦を対象とし、ジカウイルス感染の有無を尿と血液のPCRで診断し、その後の経過をフォローした。
結果:
◯出産まで経過をフォローできたジカ陽性125例、ジカ陰性61例を検討。◯児の死亡はジカ感染の有無にかかわらず7%程度
◯児の異常はジカ陽性で46%,陰性で12%。
◯ジカ陽性妊婦から出生した児は42%で、大きな異常(臨床所見、CT所見)が見られた。
◯ジカウイルスのFirst trimesterでの感染では55%、Second trimesterでの感染では52% ,Third trimesterでの感染では29%の児に異常が見られた。
雑感:
◯本題ではないが、帝王切開率(ジカ陽性82%、ジカ陰性77%)が高いのはお国柄?
林三千雄ら 手指衛生自動モニタリングシステムの遵守率測定精度とその導入がもたらす効果
(感染症誌 90:803-8 ,2016)
モニタリングについて
医療従事者は個人認証タグを携帯。医療従事者が患者のベットサイドに入ると、センサーで認知。その前後を手指衛生機会として、手指衛生がなされたかを評価する。消毒薬はモニター付きの器具に設置することで、消毒薬を使ったかか(手指衛生したか)がわかる。
感想
そこまでやるか・・・?
個々人の遵守率なんかもわかるし、どの患者に対して誰が手指衛生をしなかったかもわかる。院内感染で裁判になる事例等ではよい証拠になるかも。
自分にはそこまで管理(監視)下におくことに違和感がありますが、時代の流れからは、もしかしたら普及してしまったりするかも。
塩塚美歌ら HIV感染者に対する梅毒検査および梅毒感染の現状
(感染症誌 90:798-802,2016)
対象と方法:HIV感染者(93%が男性同性愛者)で、TPLA/RPRが計測された1000例をretrospectiveに検討。
結果:TPLA陽性率は61%、RPR陽性率は33%(全例TPLA陽性)。
結論:HIV患者ではリスクに応じた梅毒のスクリーニングが重要。