ESBL産生菌による血流感染に対して、TAZ/PIPCはカルバペネムと同等の治療成績であるとされていました (CID 2012;54:167-74)。
一方、今回、ESBL産生菌による血流感染に対して、TAZ/PIPCによる初期治療を行うとカルバペネムの場合と比べて死亡リスクが1.92倍になるというデータが発表されました(CID 2015;60:1319-1325)。TAZ/PIPC耐性菌の症例は除外しての成績です。
重症敗血症に対し、ESBL産生菌が想定起炎菌に含まれて広域抗菌薬で初期治療を行う場合には、現時点では、TAZ/PIPCよりもカルバペネムの選択が望ましいもしれません。
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体重増加気味の血液内科医 (木曜日, 10 9月 2015 10:04)
久しぶりにサイトに伺ったら、とても興味深い話でした。。
この論文は、私自身読んでいないのですが、最近、MRさんからTAZ/PIPCを売り込まれて、カルバペネムよりも優れている部分を教えてほしいと尋ねたところ、腸球菌にはTAZ/PIPCの方がMEPMより優れているという本当??ってデータと、TAZ/PIPCは耐性化しにくいというやっぱり本当???ってデータを出されました。
僕に採用申請するようにお願いされたので、とりあえずそのつもりはない、他のDrが必要だというのであれば、とめだてしないという返事をしています。
先生はどう思われてますか??
管理人 (月曜日, 14 9月 2015 19:24)
お久しぶりです。更新をさぼっておりました。
ちゃんと勉強してお答えしようと思ったのですが、バタバタしており、とりあえず思ったことを・・・
まず、腸球菌の標的治療として。
単独感染ならABPC感受性ならABPC、ABPC耐性ならVCM・・・って話を聞いてるんじゃないですよね(笑)
MEPMは腸球菌(E.faecalis)の治療薬として用いません。MEPMのE.faecalisに対する抗菌力はABPCの8分の1程度しかありません(Rも結構多い)。IPMやPAPMならABPCと同等ないし若干弱いくらいですので使えます。E.faecalisとグラム陰性菌の混合感染等で必要とあらば、MEPMでなくIPM(やPAPM)を使いましょう。TAZ/PIPCも標的菌が感受性なら使ってもよいです。ちなみにPIPCのE.faecalisに対する抗菌力はABPCの半分程度(だからABPC感受性菌にはたいてい効く)です。
TAZ/PIPCはMEPMより腸球菌に強い、というのは本当です。
次に初期治療として。
初期治療で腸球菌を想定する場合を想像すると・・・腸球菌は腸内細菌と混合感染していることが多いですし、初期治療として腸球菌を想定する場合(複雑性胆道感染など)には腸内細菌がそれ以上に想定されるでしょう。
一般論としてはどっちでもいいとは思うのですが、①想定されるESBL産生菌の頻度とESBL産生菌治療薬としての信頼性、②Enterobacterなどに対する抗菌力(腸球菌を想定するなら、これも想定してもいいですよね・・)、③貴院ではカルバペネムが適正使用されており耐性化が進んでいないこと、からして、個人的意見としては初期治療でカルバペネムかTAZ/PIPCかと悩むくらいなら、カルバペネムがよい(腸球菌をことさら意識するならIPMかPAPM)と思います。
あとは・・de-escalationしてください(笑)
耐性化しにくいという話があるのは存じておりますが、データ等については勉強不足でよく知りません。
しかし、先生のご施設ではカルバペネム系薬の耐性化はあまり起こっていないと思います。したがって、現状のとおり抗菌薬適正使用の徹底に努めていればTAZ/PIPCを採用する意義はないと考えておりました。
ちなみに、先生のご施設では、抗菌薬の新規採用にはICTの先生方の許可が必要となっているはずです。先生が望むなら、「止め立て」する医学的根拠も実務的権限もあると思います。なお、採用された場合には適正使用プログラム(届出制、許可制、ラウンド対象など)に含めるべき薬剤です。大学病院など(当院でさえ・・)でもTAZ/PIPCはすでに届出制の対象となっています。
長々すいません。またそのうち情報交換しましょう。
管理人 (月曜日, 14 9月 2015 19:35)
追伸、血液内科医殿
そんなことより、体重増加しているというのが気がかりであります。
是非ともご自愛のほど!
体重増加気味??の血液内科医 (水曜日, 23 9月 2015)
丁寧なお返事ありがとうございます。
現状では、抗菌薬の新規採用にICTの許可が・・というほどに権力はいただいておりません。一応、薬剤部などから相談があるていどです。(僕には薬審の参加権すらありませんので・・まあ、ICTリーダーは参加しているのかもしれませんが・・)
どちらにしろ、現状で、私個人の意見として、TAZ/PIPCが必須であるとは思っていませんので、採用に向けて積極的には動くつもりがないという立場ですが、ICTのスタンスとして、敵を作らずにことをなすというのが最優先課題ですので、他のDrがどうしても必要だと言えば、適正使用が必須で、その他の広域抗菌薬同様に、届出制とするつもりです。
僕自身は、タゾシンの治験をしていたこともあり、PIPC量を増やしたゾシンはすぐれた薬であるとは思っています。しかし、不可欠で他剤で代用できないとも思いにくく、先生のご意見も踏まえて、とりあえずこのままでとすることにしました。
ご相談に乗っていただいてありがとうございます。今後とも勉強させてください。
ちなみに、シルバーウィークで少し痩せました。体調はすこぶる良好です。