今シーズンのインフルエンザは過去最大の流行となっています。一般に、抗ウイルス薬を内服すると、患者さんの体内のウイルス量も早く減ることがわかっています。そうすると流行が抑えられてもよさそうなものですが、実際の流行は抗インフルエンザ薬がなかった時代と比べて減っていません。むしろ、今シーズンは「より早くインフルエンザウイルスを減らす」新薬のゾフルーザが登場したにもかかわらず過去最大の流行が見られているのです。
ゾフルーザを内服すると耐性ウイルスが成人でおよそ5-10%、小児で20%程度出現することが発売前から知られていました1)。ゾフルーザの添付文書には下のようなグラフが載っています1)。ちなみにプラセボというのは薬効成分の入っていない「偽薬」のことです。このグラフから、①ゾフルーザを内服するとウイルスが急速に減少する、②一部の患者さんではウイルスが途中から増える、ことがわかります。
このような「治療しない場合よりウイルスが長く残る」現象は、タミフル・リレンザなどの従来の抗ウイルス薬では観察されないゾフルーザ特有の現象です。内服当初にウイルスがとても早く減るので、ウイルスへの免疫が形成されづらいことが原因の一つとして考えられています。
ゾフルーザはインフルエンザによる辛い症状を1日程度早く改善させる効果がありますが、この症状改善効果自体はタミフルやリレンザなどの従来の抗インフルエンザウイルスと同等2)であり、目新しいものではありません。むしろ、世界保健機関(WHO)をはじめ世界中から注視されているのは耐性ウイルスの検出状況3)4)なのです。専門家はそのことをよく知っているので、感染症学会5)や小児科学会6)は現時点ではゾフルーザによるインフルエンザの治療は推奨せずに様子をみる姿勢をとっています。
特に学生さんや医療・介護職の方は、出校停止/勤務制限解除後にも、学校内/施設内感染の感染源になる恐れもありますので、内服しないほうが無難と考えます。
1) 塩野義製薬 ゾフルーザ錠・顆粒添付文書
2) Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Engl J Med 2018; 379: 913-23
3) Uyeki TM. A Step Forward in the Treatment of Influenza. N Engl J Med 2018; 379: 975-7
4) 新規抗インフルエンザ薬バロキサビル マルボキシル耐性変異ウイルスの検出. 国立感染症研究所 IASR 2019/1/24. (https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/593-idsc/iasr-news/8545-468p01.html)
5) キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ®)について. 日本感染症学会2018/10/1. (http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1810_endonuclease.html)
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